SOARでどう変わる?実際の導入の流れを解説します

こんにちは!松岡です。
近年、セキュリティインシデントに関するニュースを耳にしない日はないほど、企業のITシステムを取り巻く脅威は増大の一途をたどっています。
日々膨大な数のアラートが発生し、その精査や対応に追われているセキュリティ担当者も多いのではないでしょうか。こうした背景から注目されているのが、SOAR(ソアー)という仕組みです。
本記事では、SOARの概要や導入メリット、そして実際に導入する際のポイントについて詳しく解説していきます。
SOARとは
SOARはSecurity Orchestration, Automation and Responseの略で、セキュリティ関連のさまざまなツールや製品を連携(Orchestration)し、アラート対応や調査などの作業を自動化(Automation)し、さらに検知した脅威に適切かつ迅速に対応(Response)できるようにする仕組みを指します。
オーケストレーション(Orchestration)
オーケストレーションとは、複数のツールやプロセスを連携させ、一連の作業フローを一元的に管理することです。セキュリティ運用には多種多様なログ収集ツール、脅威インテリジェンスサービス、脆弱性スキャナ、エンドポイントセキュリティなどが関わります。これらを個別に運用していると、どのツールで何が起きているのか追いかけるだけでも大きな労力がかかります。SOARを活用すれば、こうしたツールの連携を統合的に管理し、必要な情報を素早く取り出したり、後述する自動化のベースとしたりすることができます。
オートメーション(Automation)
オートメーションは、日々膨大に発生するアラートのうち、自動化できる単純作業をシステムに任せることが狙いです。たとえば、ある条件のアラートが検知された際、追加のログを自動的に取得・保存する、アラートに関連する脅威情報を自動的に収集する、あるいは特定のサーバーを一時隔離するといった措置を自動で行うことなどが挙げられます。人間がひとつずつ手作業で確認する必要がないため、担当者の負担が軽減されるだけでなく、ヒューマンエラーが減り、初動対応のスピードが上がる点もメリットです。
レスポンス(Response)
レスポンスとは、実際に脅威を検知した際のインシデント対応そのものを指します。手動での対応手順が複雑になりがちなセキュリティ運用において、あらかじめ決められたワークフローに沿って自動または半自動で対処できるのは大きな強みです。もちろん、高度な判断を要する場合には担当者が最終的な意思決定を行いますが、SOARを導入することでそれまでに必要なルーティンワークをシステムに任せられるため、対応を迅速かつ正確に進められます。
SOARを導入する理由
1.アラート対応の負荷を減らす
サイバー攻撃や不審な挙動を監視していると、正しいアラートだけでなく、誤検知や低リスクな事象を含む大量の通知が発生します。すべてを人力で確認・処理していると、優先度の高いインシデントに集中する時間を奪われてしまいます。
SOARを導入することで、「一定の条件に合致するアラートは自動的に優先度を下げ、別のフォルダに振り分ける」といった最初の仕分け作業も自動化でき、担当者は本当に重要なケースにリソースを割り当てられるようになります。日常的に発生する数多くの低リスクアラートに消耗していた組織にとっては、負担軽減のインパクトが非常に大きいです。
2.スピードと品質の向上
セキュリティインシデントが起こったとき、初動対応が遅れるほど被害が拡大しやすいのは言うまでもありません。しかし、人手による操作はどうしても確認作業や連携作業に時間がかかりがちです。
SOARを使えば、あらかじめ定義された手順に従って、関連するログの収集や分析ツールの呼び出し、場合によっては感染端末の隔離やネットワーク設定の変更などを自動で開始できます。早い段階で適切な対策を打てるため、インシデントの被害規模を最小限に抑えることが期待できます。
3.ヒューマンエラーの削減
セキュリティ運用には専門的な知識だけでなく、細かい作業手順を正しく実行することが求められます。しかし、どんなに熟練した担当者であっても、人間の作業にはミスがつきものです。ログを見間違えたり、指示を間違った端末に実行してしまったりする可能性もゼロではありません。
その点、SOARによる自動化が進めば、ルーティンワークや明確なルールに基づく作業を機械に任せることができます。人間が関与するのは最終判断や臨機応変な対応が必要な場面に限られるため、ヒューマンエラーの確率が下がるだけでなく、担当者のストレス軽減につながることも期待できます。
SOAR導入の流れ
1.現状のアラート対応プロセスを可視化
SOARを導入するときに、まず欠かせないのが現在の運用状況の洗い出しです。どのタイミングでアラートが上がり、誰がどんな手順で対処しているのか、使用しているツールや報告フローはどうなっているのかなどを細かく確認します。
ここで重要なのは、実際の担当者の声をヒアリングし、現場での課題や改善希望を把握することです。運用フローがあいまいなままSOARを導入すると、効果が出るどころか混乱を招きかねません。まずは現在の問題点を明確にし、どこに注力して自動化・効率化を図るべきかを見極める必要があります。
2.自動化できる作業とできない作業を分ける
次に、自動化できる部分と自動化できない(あるいは自動化してもメリットが小さい)部分を明確に切り分けます。
たとえば、以下の観点が参考になります。
機械的に処理可能な単純作業:特定のログ収集や、既知の脅威パターンとの照合など
一定のルールで判断できるプロセス:ログ内に特定の文字列が見つかったら端末を隔離する、レピュテーションの低いIPアドレスからのアクセスをブロックする など
人間の知識や経験が必要な判断:脅威のビジネス影響度の評価、未知の攻撃パターンに対する推測、組織としての対応方針の策定 など
SOARによってすべてが自動化されるわけではありません。「どこを機械に任せ、どこを人間が担当するか」を明確にし、最初から過度な期待を抱きすぎないことが、スムーズな導入において重要です。
3.導入範囲を段階的に拡大する
自動化の対象が明確になったら、まずは自動化による効果が高い作業から導入を始めるのがおすすめです。代表的な例としては「膨大なアラートの初期振り分け」や「特定ログの自動収集と添付レポート作成」など、比較的わかりやすくリスクも低い領域が挙げられます。
少しずつ運用に馴染ませながら、システムの設定やワークフローの最適化を図ることで、「導入したはいいが、誰も使いこなせない」という事態を防げます。最初の導入段階で課題が見つかった場合も、範囲が限定されていれば修正が容易です。
運用実績とフィードバックを積み重ね、担当者が自動化に慣れてきたら、徐々にカバー範囲を広げていきます。SOARはあくまで運用全体を継続的に改善していくためのプラットフォームととらえ、段階的に成熟度を高めていくのが良いでしょう。
まとめ
セキュリティの脅威が増大し、アラート対応に膨大な時間と労力を費やさざるを得ない状況が続く中で、SOARは現場の負担を軽減し、効率的なセキュリティ運用を実現する鍵となるソリューションです。ツールやシステムを統合的に管理し、ルール化可能な作業を自動化することで、対応スピードと品質を高めつつ、担当者の負担やヒューマンエラーを減らすことができるのは大きな魅力といえます。
とはいえ、SOARを導入すればすべてが自動で解決するわけではありません。自動化できる部分と人間が判断・対応する部分をしっかり切り分けることで、より効率的な運用が実現します。また、最初から大規模に導入してしまうと、社内のプロセスやツールの設定が追いつかず混乱が生じる可能性もあるため、効果が得られそうな領域から段階的に取り入れるアプローチがおすすめです。
セキュリティ対策は、常に新しい脅威に対応し続ける必要があります。その中で、少しでも人的リソースを有効活用し、緊急度の高いインシデントに集中できる環境を作ることが、組織としてのリスク管理をより強固にするポイントとなるでしょう。まずは自社の現状を棚卸しし、「どの作業を自動化すべきか?」という視点を持つところから、SOAR導入の検討を始めてみてはいかがでしょうか。
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SOC(セキュリティ監視)
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