企業と消費者が両輪となり進化する | B Corp 認証企業対談 |ダノンジャパン 大楠絵里子氏 | 後編

クラフは、2023年9月に、社会や環境に配慮した公益性の高い企業に対する国際認証「B Corporation(以下B Corp)」を取得しました。

認証企業のダノンジャパン株式会社コーポレートアフェアーズ本部長の大楠絵里子氏とクラフ代表取締役 藤崎の対談。

前編では、社会やB Corp認証に対する考え方を伺いました。後編では、「良い会社」について、また日本におけるこれからのB Corpムーブメントについてなどを対談します。

ー「良い会社」とは何か

大楠(以下敬称略):B Corp認証を取得している会社は世界標準の「良い会社」と言われますが、一般生活者・消費者はどのような軸で「良い会社」と認識するのでしょうか。

地球環境に配慮して製品を作っている会社は、もちろん社会にとって良い会社ですが、必ずしも直接的に一般生活者・消費者のベネフィットに繋がることが多くないため、見えづらいところがあります。

一方「良い会社=働きやすい会社」と考えると、見え方が変わります。例えば、以前子育てとの両立を後押しする制度が整っている会社だと聞いて、私にとって「働きやすい会社」だと思い入社したところ、残念ながら実情は違ったということを経験したことがあります。

B Corp認証には、福利厚生を含め従業員への対応の側面も評価軸として含まれており、エビデンスがあって初めて各項目の点数が取得できるので、もし当時B Corpが日本にも導入されていて、認証企業を選択することができていたら、入社してから違ったということは起きなかったのではないかなと思います。

B Corp自体がまだあまり知られていない日本において、すでにB Corp認証を取得している企業やこれから認証取得を考えている企業は、一般生活者・消費者によりわかりやすい形で、自分事にできそうな側面から認知を高めていく必要があるのではないでしょうか。

藤崎:私たちは「安心を提供する会社で在り続ける」を企業理念に、サイバーセキュリティの事業を通じてビジネスで社会に安心を提供することはもちろん、最も注力しているのはやはり未経験者をIT人材に育成していくところです。

今回の認証にあたっても、従業員の項目が特に評価されました。もともとは私が異業種出身でIT業界へ転身する時に大変苦労した原体験がありました。同じようにIT業界に入りたくても一歩踏み出せない方々を受け入れ育成することで、自身のスキルや経験が宮崎のみならず社会全体に必要とされる体感を得て自信を持っていってほしい。キャリアの危機感や焦燥感から始まり、ひとつひとつ自信をつけ、その行く先に安心があるはず。

特に挑戦の機会が限られる地方宮崎で創業したことも、そのような想いからです。

一方で、もともとペーパーレス等の環境で事業をしていることや、CO2の削減ができるような製造の過程があるわけではないことなどから環境に対する取り組みはまだ限定的ですし、これから向き合っていくべき課題もたくさんあります。

大楠:当社も、再認証で全体の点数があがったとはいえ、ビジネスの成長の速度に社会へのアクションが追いついていないところもあります。

時代の変化とともに日々求められることも変わっていくので、常に新しい課題と向きあっていますね。

藤崎:他国と比べて日本の寄付金市場が小さいこともありますが、B Corp認証の過程でグローバルな価値観に触れ、新たな気付きも得られることが多々あります。

大楠:寄付金の割合もそうですし、ボランティアの活動時間や、外部からの人材確保ではなく社内の人材を登用することなど、改善できる点はまだ多くあると感じます。

当社ではボランティア休暇が年に何日かあるのですが、会社から促進がなくとも、自らボランティアに興味を持って取り組む社員が増えていくと良いなと思います。

藤崎:そうですね。当社では、宮崎県警から委嘱を受け「特定サイバー防犯ボランティア」として社員が県内の学校で情報モラル教室の講師を務めたりサイバーパトロールを行ったり、事業を通じた地域貢献策を模索しながら始めているところです。

大楠:当社は公益財団法人ダノン健康栄養財団に毎年寄付をしており、財団を通じて、日本中の子どもたちへの食育活動に取り組んでいます。最近では対象年齢を拡大し、より幅広い年代に向けて健康と栄養に関するセミナーを行っています。

こうした活動は「世界中のより多くの人々に、食を通じて健康をお届けする」をミッションに掲げて製品を届けている当社ならではの取り組みではないかと感じます。

ー日本におけるB Corpムーブメント

大楠:日本では、B Corp認証企業や認証取得を目指す企業のコミュニティがあり、助け合う文化が醸成されつつありますが、海外ではB Corpは大手企業より、スタートアップ企業がゼロから良い会社を作るために取得するものという認識があるようで、日本のようなコミュニティはないと聞いています。

一方、ヨーロッパで街を歩くと「私たちはB Corp認証企業です」という垂れ幕が店頭に掲げてあることがあります。それは日本ではめったに見かけない光景ですね。

ヨーロッパでは、消費者も含め認証企業であることの価値への共通理解があるからこその光景ではないでしょうか。

日本ではコミュニティ文化が醸成されていて、ヨーロッパでは認証の知名度・価値が浸透している印象です。

日本の良さであるコミュニティのつながりを通じて、異業種企業とのビジネスコラボレーションの機会をいただくこともあります。これは、「ビジネスをよりよい社会をつくるための力として用いるグローバルエコノミーを目指す」という同じゴールを目指している会社同士だからこそできることだと思います。

藤崎:同じ価値観を持つからこそ違う会社がともに事業展開できるという点はまさに今感じているところです。私たちも、自社で開発した社会課題解決に向けたセキュリティのサービスを世界へと広げるべく、ベトナムの会社と協力して展開しています。

私たちのみならず、認証企業それぞれが社会に対して行っていること、これがB Corpコミュニティ全体として大きなパワーで社会に貢献することに繋げていきたいです。

日本において、このように企業が社会を良くしたいという想い、公益性の高い企業を助けていきたい、これから認証取得を考える企業と助け合っていきたいという雰囲気・文化が醸成されてきていますね。

全ての企業が社会により良い企業へと進化を続け、消費者の行動も変わっていく。これがB Corp認証が広がることなのかもしれません。

大楠:そうですね。企業がこうしたコミュニティを形成していく一方、一般生活者・消費者の価値観とは未だ乖離があるようにも感じます。こうした中でどのようにB Corpの価値を伝えていくのが良いかを考えたとき、どうしたら「自分事として捉えてもらえるか」が重要になると思います。

例えば、海外に比べて日本には、買い物をする際エコバッグを環境のためを思って持参する人よりも、買い物袋を買う費用はかけたくないから持参するという人の方が多いのではないかと感じることがあります。そうなると、もしかしたらまだ環境の側面を前面に押し出してB Corpの認知向上を図っても、難しいのかなと思うこともあります。

一方で、B Corp認証を取得している企業=働きやすい会社ということが事実として認知されれば、会社を選択する際の一つの指標になり、結果として認知向上のきっかけになる可能性もあります。自分ごととしてB Corpの価値を理解し行動する一般生活者・消費者が増えれば、認証取得企業同士だけでなく、皆でより良い社会・会社を作っていくことにつなげていけるのではないでしょうか。

B Corp認証は、企業を改善に導くツールであり、企業の通知表のようなものです。点数を取ること自体が目的なのではなく、社会の変化に対応しながら、自社の強みと弱みを把握した上で、常により良い会社になることを目指し改善を繰り返すことができる社員がいる会社が、B Corp認証企業だと思っていますし、そういった理解が今後も社内外で広まっていくと良いなと思っています。

B Corp認証取得企業や取得を目指す企業など、企業同士のコミュニティ文化が醸成されつつある日本。一方で一般消費者の価値観とは乖離がある現状もあります。

企業がB Corpコミュニティの一員としてそれぞれ進化を続けることはもちろん、消費者・一般生活者も巻き込んで進化していくことで、より社会を良くしていくことができるというお話もありました。

変わりゆく社会に私たちは、自社は何ができるのか。改めて考えるきっかけとなりました